困ったちゃんFile 10(2003年2月6日の日記とほぼ同内容) 初診の患者さんが来た。60代の男性、Iさんだ。とにかく声が大きい。 「足にタコが4個もできたんや! ここはちゃんと診てくれるんか!?」 前に来院した事があるというのだが、コンピュータで探してもカルテはない。相方のOさんがそれを説明して、問診票を書いてもらおうとしたのだが、 「そんなん見えへん! 分からんし!」と、拒否。 仕方ないので、Oさんが読み上げて返事をもらったのだが、いちいち脱線するのだ。 「歯医者さんとかで麻酔を受けて、気分悪くなった事がありますか?」 「ないけどな、○○の歯医者はあかんな!」 「そうですか・・・。大きな手術を受けた事はありますか?」 「ない! そやけど、○○病院は全然ちゃんと診てくれへんで!」 「はぁ・・・」 診察の患者が多かったので、Iさんの順番が回ってくるまで時間がかかるのだが、ずーっと受付にがぶり寄り。全く離れようとしない。戦争の話や、病気の話、旅行の話、岸和田のだんじりの話、とにかく喋り倒すのだ。地声が大きいので、耳に響いてたまったもんじゃない。解放されたのは、Iさんがタバコを吸いに外に出た時だけ。無視してもいいんだろうけど、他病院の悪口も大声で言う人だ。うちを他所で悪く言われても困る。ほどほどに受け流してはいたが、たまに目も合わせなければいけないから、仕事に支障をきたし始めた。 Oさんと私が受付を離れたら待合室で座るだろうと思っていたが、私達が戻って来るまで待っている。私がちょっとだけ診察室に避難すると、婦長もドクターも、診察を受けている患者さんも笑っているじゃないか。 「Nishikoちゃん、強烈な人が来たなぁ」と、婦長。 「お願いやから、早く診察室に入れてタコ取ってよー」 「次やから、もうちょっと我慢してなー。診察もさっさとして、早く帰すようにするから」 「うん・・・」 婦長、凄い権限あるんやなぁ・・・。 このIさん、大正生まれの母親と2人暮らしのようだ。普段は話し相手がいないのかもしれない。だからこういう人の多い場所や、話を聞いてくれる人を見つけると、嬉しくってたまらないのかも。 でもね、私達は仕事中。がっぷりよつに組む暇なんてないのさ。角が立たないように、いなさないと。いなすのはOさんの得意技なので、80%くらい応対してもらったのだが、彼女も限界に近付いていた。 と、診察室からIさんの名を呼ぶ婦長の声が! 待ってましたー!! 結局、数日間は薬を塗ってタコを柔らかくして、土曜日に取る事に。 そう言えば、帰りにタクシーを呼んでくれと言われたっけ。普通なら、自分で院内の公衆電話からフリーダイヤルでかけてもらうのだが、 「すぐ呼ぶ! 1分でも早く!」 率先して電話をかける私。会計の終わったIさんは、いつの間にか外に出て、いつの間にかタクシーに乗って帰ったようだ。 間もなく、2階のリハビリフロアの職員が降りてきた。 「今日、凄い声の患者さん、来てたんちゃう?」 「え?」 「だって、2階まで何話してるか聞こえてたもん」 「マジでか・・・」 どうりで、耳がぐわんぐわんしてるはずだ・・・。 |